[ニュースレターNo.23_INDEX]

校舎に飛び込む昆虫についての一考察

 

東頸城郡大島村立大島小学校 校長
山本 敬一

オツネントンボ

1.はじめに

 平成10年3月30日、事務引継ぎのため、初めて大島小学校に入る。その私を歓迎してくれたのが越冬中のオツネントンボである。4月6日、多くのオツネントンボに混じって、ややくすんだ水色の個体を1頭発見。ホソミオツネントンボのオスである。「えっ、どうして」という思いであった。

2.今までに記録したトンボ

校舎内及び校地周辺で記録した種は次の通りである。

トンボ類
イトトンボ科 アジアイトトンボ、モートンイトトンボ、キイトトンボ、クロイトイトトンボ
モノサシトンボ科 モノサシトンボ
アオイトトンボ科 オツネントンボホソミオツネントンボアオイトトンボオオアオイトトンボ
カワトンボ科 ハグロトンボヒガシカワトンボ
ムカシヤンマ科 ムカシヤンマ
サナエトンボ科 ヤマサナエ、コサナエ、コオニヤンマ
オニヤンマ科 オニヤンマ
ヤンマ科 コシボソヤンマアオヤンマネアカヨシヤンマヤブヤンマオオルリボシヤンマクロスジギンヤンマギンヤンマ、ミルンヤンマ
エゾトンボ科 タカネトンボ
ヤマトンボ科 コヤマトンボ
トンボ科
シオカラトンボシオヤトンボオオシオカラトンボヨツボシトンボショウジョウトンボアキアカネマユタテアカネノシメトンボコノシメトンボキトンボウスバキトンボコシアキトンボ

注1)太字は校舎に飛び込んだ種
注2)この他大島村で確認された種
オオイトトンボ、エゾイトトンボ、ムカシトンボ、サラサヤンマ、ルリボシヤンマ、オオトラフトンボ、カラカネトンボ、オオエゾトンボ、オオヤマトンボ、リスアカネ、ハネビロトンボ(鼻毛の池)、チョウトンボ、ナツアカネ


3. 注目すべき種

ホソミオツネントンボ
(写真/越冬したホソミオツネントンボ)

(1)ホソミオツネントンボ
 関西及び太平洋側に分布する種で、同属のオツネントンボと住み分け、多雪地帯の新潟県では、長野県、群馬県、福島県との各県境で数箇所記録があるにすぎない。近年、パインバレーや入広瀬等で生息が確認され、新たな動きが見られる。

(2)ネアカヨシヤンマ
 ヨシが繁茂する沖積の湖沼を主な生息地としていたが、昭和30年代を境に激減し、絶滅が心配されていた。20年程前、西山と刈羽の一部での生息が分かり、注目されていた種である。

(3)ヤブヤンマ 後述

4.大島小学校に飛び込む昆虫の具体的な記録

(1)クロスジギンヤンマ

平成10年5月26日
初飛込み♀
以後 7月上旬まで♀のみ
平成11年6月 3日
初飛込み♀
     6月 5日
♂1
       8日
♂1 ♀は連日飛び込む
 7月に体育館ギャラリーで落体確認♂3,♀3

(2)ヤブヤンマ

平成10年6月26日
初飛込み♀
以後 8月上旬まで ♀のみ
平成11年7月19日
初飛込み♀
     7月22日
♂初記録

ヤブヤンマ ♀は池沼のコケむした緑や柔らかな土に産卵する。学校周辺で生息に適した環境を探したが、近くの用水池の外は確認できなかった。しかし、池の大きさからして、学校に飛び込んだ個体数が多すぎる。その上、用水池が道路拡張で埋め立てられてしまった。11年は7月に入ってもしばらくは飛込みがなかったので、池の埋め立てが原因かと思っていた矢先、19日以降連日の飛込みをみた。そして、22日には初めて♂1頭をゲット。

(写真/羽化直後のヤブヤンマ)

(3)ネアカヨシヤンマ
平成10年7月24日 ♀1

 本種の生態からして遺存種とは考えられない。逆に侵入種かといえば、周辺どころか現存地域さえ限られる特殊な種であり、まったく過去のデータからの推定は不可能である。
 同じ沖積を主な生息域としているアオヤンマの場合、過去に保倉川や飯田川を遡った例がある。これは、高田平野の周辺に、安定した生息地があるからで、現に一度は消えたお堀にも再び生息するようになっている。

(4)ムカシヤンマ
 クロスジギンヤンマと時期を前後して飛び込んでくるが、6月上旬で消えている。これはクロスジギンヤンマに比べ、羽化期間が短いことによる。
 他の大型のトンボに比べ、飛翔力が弱いので、学校周辺や小沢が生息地である。

(5)コシボソヤンマ
 いずれの個体も体育館のギャラリーでの落体である
 保倉川が生息地

(6)オニヤンマ
 飛び込む個体数が最も多いだけでなく、飛び込んでくる時間帯(日中いつでも)、期間(7月上旬から10月上旬)とも最も長い。

(7)ハグロトンボハグロトンボ
 沖積の河川が主な生息地であったが、農薬禍で激減、丘陵河川の一部に生息していた仲間によって、近年回復傾向を示している。大島村一帯は生息地の上流域に位 置している。

(写真/ハグロトンボの交尾)

5.校舎に飛び込む昆虫の研究対象としての価値

(1)飛び込むトンボの共通点-1(原本は○囲み数字)
 ネアカヨシヤンマ、ヤブヤンマ、コシボソヤンマ、タカネトンボに共通する性質は、「たそがれ性」である。太陽高度が高く、明るい日中は、木陰や林内で過ごし、夕方になって捕食活動に入る。ヤブヤンマの場合5ルクス位 の明るさでも活動している。ネアカヨシヤンマはヨシ原の上空3〜5m位の高さを、コシボソヤンマは川の水面 から20〜50cm位の高さを、タカネトンボは水域を離れて、1m前後の高さを飛行している。この活動中に民家等の明かりに誘引されることがある。

(2)飛び込むトンボの共通点-2
 ヤブヤンマ、クロスジギンヤンマ、タカネトンボの飛び込んできた個体はほとんど♀である。ネアカヨシヤンマも1個体であるが♀である。コヤマトンボも♀が8割と中、大型のトンボは♀の飛込みが多い。

(3)飛び込むトンボの共通点-3
 日中体育館に飛び込んだ♀はフローリング上を低く飛行しながら、輝面に盛んに尾部を叩きつける仕草を見せる。

(4)職員室に飛び込むオニヤンマの特徴-1
 窓から侵入した個体は、必ず蛍光灯の端に向かって突撃をし、ぶつかる。一度ならず何度も同じ仕草を繰り返す。

(5)職員室に飛び込むオニヤンマの特徴-2
 飛び込む窓は必ず南側で、出ていくときは南北半々である。しかし、一度で出ることは少なく、窓ガラスに何度も頭部をぶっつける。


 以上が観察で分かったことである。このことから幾つかの疑問が生まれる。次にその一例を示すが、できれば子供たちのもつ疑問と結付け、一緒に解決したいものである。

 ・なぜ♀の方が多く校舎に飛び込むのか。♂と♀で違ってくる原因はなにか。
 ・オニヤンマは校舎に入るとき窓ガラスに衝突しないのに、出るときに何度もぶつかるのはなぜか。
 ・オニヤンマが蛍光灯に突撃するのはなぜか。
 ・季節によって校舎に飛び込むトンボの種類の違い。
 ・オニヤンマが長い期間飛び続けることができる理由。
 ・校舎に飛び込む昆虫が多いのは大島小学校だけなのだろうか。

 


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